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● 雨玉センチメンタリズム --- 第一話 オマツリ ●

 私が神田ユウという存在に出会ったのは、確か五歳の夏だった。そんな昔の記憶でもまだ鮮明に思い出せることが出来る。それだけ私にとって印象的な出来事だったんだろう、って今になって思う。だってユウは私にとってとても大切な存在なのだから。
 うちの剣道場に通っていた同い年の男の子がお祭りに誘ってくれて、夕刻の稽古を抜け出して隣の裏山の向こうの神社に二人で駆けた。私のお父さんは本当に怖かったから体罰は覚悟していった。今でもあのときの手が震えていたことを覚えてる。一緒に走ってくれた男の子がいてどんなに助かったことか。今では名前すら覚えていないのに。今彼はどこで何をしているんだろう。今更だけどその男の子に申し訳ないなって思ってしまう。
 神社についた頃には、もうお祭りは始まってて、村の人がたくさん神社の境内に集まっていた。私は生まれて初めてお祭りというモノを自分の目で見たから、何から何まで新鮮で、目を大きくしてきょろきょろしてたら男の子に笑われた。なかでもリンゴ飴を見たときには感動に似た感情を抱いた。今度お祭りがあったら絶対お小遣いを持ってこようと爪を噛んで泣きそうになりながらりんご飴を眺めていると、そんな私の感情をしってかしらずか、リンゴ飴を売ってる村のおじちゃんが無料で私と男の子の分までリンゴ飴の一番小さいのをくれた。渡すときに「内緒だよ」とウィンクしたそうな顔で。
 初めて食べたリンゴ飴はとてつもなく美味しかった。今までこんなに甘い食べ物を食べたことがなかった。武道を嗜む者、甘物は毒と父親にいわれて育った私には、砂糖の味すらその頃は知らなかった。今思うと甘物が好きだったという私の母親はそうとう苦労しただろう。少なくとも、私は自分の家で甘物を見たことはなかった。父親に隠れて母親が食べていたことはあり得る。母親はお世辞でも痩せているとは言えない体型だったから。多分ストレスで食べ物にあたってたんじゃないかなぁと私は思う。
 さて、がやがやと神社の境内がさらにうるさくなってきた。何か、と私が男の子に聞いたら「演舞」という答えが返ってきた。どうやら、神社の巫女さんが神とお祭りのために踊りを披露するらしい。私は生まれてから踊りなんて踊ったことなかったし、見たこともなかったので踊りといわれてもいまいちぴんとこなかった。
 男の子に手を引かれてなるべく前の方に大人をかき分けて行った。運良く私たちと同じような年の子どもたちがたくさん前にいたので、そこにすべりこめた。
 ドンという太鼓の音で一人の小さい子が小さい舞台に歩き出てきた。細い華奢な腕には、大きなちょっと重そうな番傘を慎重に持っていた。綺麗な黒い長い髪はまっすぐ腰あたりて切りそろえられ、前髪もお人形さん見たいに切りそろえられていた。綺麗な女の子、、、だなぁと素直に思った。そして、あの子は私が持っていないモノをたくさん持ってると思った。でも不思議と嫉妬心はなくて、ただその子が輝いて見えた。女の子、、、らしい長くて綺麗な髪、将来美人になるだろう綺麗な形をした目。として今まで、そしてこれからも育てられるであろう私とあの子は、正反対だった。
「あのこだぁれ?」
 私は隣で同じく舞台を見上げていた男の子に聞いた。
「神田ユウっていう子。神社の神主さんの子どもだって。将来巫女さんになるってお父さんが言ってた。」
「そうなんだ・・・。」
 それが、私が初めて神田ユウという存在を知った瞬間だった。その時はまさかユウが男の子、、、だったなんて思いもしなかった。まさか彼と私が人生を交代するようなことをするなんて、思いもしなかった。ただその時は、神田ユウって子がとても綺麗な女の子、、、だとしか、思っていなかった。
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